労働衛生の3管理

職場の労働衛生管理を進めるにあたって、『作業環境管理』『作業管理』『健康管理』という概念があります。これは、衛生に限らず安全を考えるうえでも大切な概念です。また、職場巡視を行う上でも重要な視点となります。それぞれ以下の通りです。

  1. 作業環境管理:有害物質など、作業環境中の有害因子を取り除いて適正な作業環境を確保すること。主に設備面の対策が中心になりますが、作業環境測定やその結果を評価することなども含みます。
  2. 作業管理:作業に伴う有害因子や身体的負荷などの影響など除去すること。作業方法の管理や保護具の着用などがあります。時間や業務量の管理なども含まれると考えられます。
  3. 健康管理:健康診断(一般・特殊)を通じて健康状態や有害因子の影響などを把握し、その結果に基づいて適切な対策を行うことです。保健指導や作業環境・作業方法の検討・改善などを通じて、健康障害の発生や悪化を未然に防ぐことを目的とします。

これら3つの管理は、1から3へと川の上流から下流に例えられ、従来は上流の管理を重視する傾向もありました。上流の管理が下流に影響するのは確かですが、実際にはそれぞれ関連しあっていてどれも重要です。

従来からの活動で、設備面などいわゆる作業環境管理に関してはかなりの改善がみられていると感じます。健康診断の実施にも力が入れられてきたと考えられます。その一方で、作業方法やルール遵守といった作業管理や健康診断の事後措置などは、すこし遅れがちなのではないかと感じる場合があります。作業環境管理をハードウェア、作業管理や健康管理をソフトウェアに例えると、ハードウェアは充実してもソフトウェアがついてきていないような状況のように思います。

これまで、産業現場での事故やインシデント、健康障害などは、原因と結果が1対1ないしそれに近い比較的単純な因果関係で説明可能なものが大半でした。しかしながら、IT化やグローバル化、製造やサービスの高度化や効率化などにより産業環境や社会環境が複雑化するにつれて、不利益事象が起こる因果関係も複雑化してきています。
このような環境下では、従来からなされてきた、事故などのようないわば特別な状況である「うまくいかなかったこと」の解析と対策の検討だけでなく、大半を占める平素の「うまくいっていること」に目を向けて「うまくいっていることの要因」にも着目していくことが必要だと考えられるようになってきています。これは、安全活動にも衛生活動にもいえることで、これからの3管理を考えていくうえでの一つの重要な視点になると考えています。