長時間労働の医師への面接指導

2024年の4月から医師についても時間外労働の上限規制が適用されるとともに、一定以上の時間外労働をする場合には追加的健康確保措置の実施が義務付けられます。その中でも面接指導の実施は、特に重要視されると考えられます。一方で、医師による医師への面接指導、いわば同業者・専門家への面接指導という特殊性から様々な課題もあると考えられます。

制度や実施目的

これまでも長時間労働者への過重労働面談は、一般企業では行われてきました。医師については、これまで時間外労働の上限規制が適用除外とされていたこともあり、長時間労働を対象とした面談はあまり行われていませんでした。しかし働き方改革の流れの中で、5年間適用を猶予されてきた建設業や運送業などとともに、医師についても労働の上限規制が適用されることになります。このような流れの中で他の業種・職種と同様に、長時間労働による健康障害の兆候を早期に発見して防止することを目的に医師による面接指導が行われることになります。

長時間労働の医師への面接指導については、厚生労働省で実施に関するマニュアルが作成されており、実施の目的・対象者・評価ポイント・保健指導・事後措置などに関する事項が、ベースの知見となるエビデンスなども交えて解説されています。

このマニュアルで、面接指導も目的や期待される効果について、次のように示されています。

長時間労働医師への健康確保措置に関するマニュアルより引用

医師という健康の専門家であるがゆえに、他者から健康管理や労務管理に関する助言を受けることが少なく、「自分は大丈夫」と思いがちな面接指導対象者に気づきや行動変容を促すとともに、管理者についても一般事業者と同様の安全配慮義務を履行できるようにすることが大きな目標になっていると考えられます。

心身の状況等の把握

面接指導においては限られた時間の中で、面談対象者に関する勤務状況や心身状態を手際よく効率的に、しかも適切に把握する必要があります。このために、面接指導において確認するべき項目を順序立てて整理し、要点をつかんでおくことが重要になります。これらは、これまで一般企業において行われてきた過重労働面談における事項とも共通します。

一般情報

まずは、年齢や性別について確認します。長時間労働に関する面接指導において、労働者の性・年齢を考慮した時間外労働の基準は設けられていませんが、性差や年齢による生活習慣の違いや個人要因による健康リスクの相違があるため基礎情報として重要です。また必要に応じて、家族構成や同居人の有無などを確認することも有用と考えられます。これらの情報は、飲酒や喫煙、食生活習慣、余暇の過ごし方などを確認するうえでも参考になります。

次に所属する診療科、業務内容、勤務態様、労働時間などについて確認します。特に、時間外・休日労働、深夜勤務の頻度や時間を把握することが重要です。おかれている立場や地位などについての情報なども、心身への負荷を評価するうえで有用と考えられます。

睡眠

睡眠の状況は、疲労の蓄積度やその回復、心身への影響などを評価するうえで非常に重要といわれています。特に慢性的な睡眠不足による睡眠負債の状況を確認することが重要視されています。一般的には、睡眠時間や日中の眠気などを確認して評価します。中途覚醒や早朝覚醒の有無、熟眠感なども確認します。アテネ不眠尺度などを参考にして、各質問項目を念頭に簡潔な表現で質問することも有用です。

長時間労働医師への健康確保措置に関するマニュアルより引用

必要に応じて、精神運動覚精度検査(PVT)やアクチグラフなどの客観的指標を活用することが推奨されています。これらの指標に関する知識は、睡眠負債を理解するうえでも有用です。また、睡眠時無呼吸症候群を疑う所見が見られる場合は、簡易睡眠ポリグラフ検査などの精査を勧奨します。

最終的に、睡眠負債の程度を「0 点(低)~ 3 点(高)で評価する」とされています。

疲労度

疲労蓄積度自己診断チェックリストの結果を参考に、面接時の様子や日常生活での状況なども踏まえて疲労蓄積度を評価します。疲労蓄積度自己診断チェックリストについては、WEBプログラムなども公開されていますので、活用して事前に行っておいてもらうようにすると円滑に確認できます。

疲労蓄積度も、睡眠負債の程度を「0 点(低)~ 3 点(高)で評価する」とされています。

心理状況

主として、抑うつ症状の有無などを確認します。疲労蓄積度チェックにおいて、うつ症状が疑われる自覚症状(4, 5, 7, 10, 11, 12の項目)の点数が高い場合は、「うつ病の簡便な構造化面接法(BSID)」を活用するよう推奨されています。自殺念慮の発現にも注意します。

また、バーンアウトの兆候も確認するようにします。日本語版バーンアウト尺度などの質問項目が参考になります。医師はバーンアウトのリスクが高く、その影響も大きいため評価すべきポイントとされています。

身体状況

主として心脳血管疾患のリスクを念頭に、血圧、BMI、自覚症状の有無、喫煙・飲酒習慣、運動習慣、食事内容、自覚症状の有無などを確認します。実際には、直近の定期健康診断結果を持参していただいて、確認することになると考えられます。

実効的な保健指導

睡眠や疲労蓄積度、心身状況などの情報を基に保健指導を行うことになります。具体的には、①一般的な健康管理のみならず、②睡眠時間や睡眠の質、③ストレスコーピングについて保健指導を行うことが重要とされています。

特に睡眠については重要で、1日6時間以上の睡眠時間を確保することや就寝前にPCやスマートフォンを操作しないことなどの事項がポイントとされており、健康づくりのための睡眠指針2014も参考になります。

長時間労働医師への健康確保措置に関するマニュアルより引用

医師に対する保健指導となると、実施する側としては、どうしても釈迦に説法のような印象を持ってしまい消極的になる可能性も否めません。これについては、マニュアルにもあるように「気づき」を促すことに重点を置き、必要に応じて客観的指標やエビデンスを示すようにすることが実効性のある保健指導につながると考えられます。

長時間労働医師への健康確保措置に関するマニュアルより引用

また面接指導にあたって、上記のような点にも留意すべきとされています。個々の面接対象が置かれた状況や価値観などの相違に配慮しつつ、必要な対策は速やかに講じなくてはなりません。

労働環境の把握と事後措置

面談指導の結果を受けて、最終的に事後措置の必要性を検討することになります。まずは、勤務間インターバルや代替休息など最低限必要な措置が確実に確保されるようにする必要があります。就業制限を伴うような事後措置については、判断が難しいところですが、次のようなポイントが示されています。

長時間労働医師への健康確保措置に関するマニュアルより引用

ある程度の緊急度や必要性があると判断した場合は、対象者に説明を尽くして理解を求めるように努め、必要な事後措置を講じなくてはなりません。面接指導対象者の健康障害の防止を第一に考える必要があります。

長時間労働医師への健康確保措置に関するマニュアルより引用

また上図のような面接指導の実施体制を念頭に、対象者個人の健康確保のみならず、組織として果たすべき安全配慮義務の履行も重要な目的であることを意識する必要があり、管理者の理解が得られるようにすることも重要と考えられます。ワーク・エンゲイジメントの概念も理解したうえで、組織的なマネジメントも考える必要があります。

面接指導結果報告書の作成

以上までの面接指導をふまえて、報告書・意見書を作成することになります。実施マニュアルに面接指導結果報告書のひな形が示されており、これまで行われてきた過重労働面談の報告書に類似したものになっています。

本人への指導区分(0 .措置不要 、 1 .要保健指導 、 2 現病治療継続又は医療機関紹介)と(就業区分 0 .通常勤務 、 1 .就業制限・配慮 、 2 .要休業)を判定し 、報告書・意見書を作成の上、管理者に報告します。その際、診断名、具体的な愁訴や詳細な指導などは記載しないよう留意するとされています。また報告書・ 意見書の作成に当たっては、必要に応じて産業医と連携することが望ましいともされています。

実施医師の確保と専門的知識

ここまで、長時間労働の医師への面接指導の概要を見てきました。実施マニュアルの内容をかなり要約ましたが、全体としては参考資料も含めるとかなりのボリュームになります。実際の面接指導で確認するべき事項や留意すべき点も多々あります。必要とされる知見も、労働関係法規・睡眠負債や疲労蓄積の心身への影響・追加的健康確保措置の概要・組織マネジメントに関する事項など多岐にわたっています。

このため、面接指導実施医師は、厚生労働省が実施する面接指導実施医師養成講習会を受講することになっています。また面接対象となる医師についても、長時間労働の健康に及ぼす影響などへの気づきを得るために受講することが望ましいとされています。実質的には、すべての医師が受講するべきということになります。
医師に対する面接指導という特殊性から、面接指導を受ける側の納得感や満足感を担保するためにも、面接指導の意義や必要性を支える根拠となる知見が必要になると考えられます。

前述の講習を受講すれば、すべての医師が面接指導実施医師になることができ、医療機関の産業医が担当することもできます。しかしながら、同じ医療機関に所属する面識のある医師同士が実施医師と対象医師になることは、好ましくない場合もあると考えられます。お互いへの遠慮や忖度などから実効性や公正性、独立性が担保できない可能性があるためです。特に事後措置については、十分に意見しにくいいケースや管理者に意見しにくいことも想定されます。また、ただでさえ多忙な勤務医が面接指導医師まで担当することは、かなりの負担になるとも思われます。

以上のような状況から、実施医師と対象医師のマッチングについては、外部の医師と連携するなどの対策も検討する必要があると考えられます。

まとめ

以上、長時間労働の医師への面接指導の概要と課題について見てきました。面接指導対象となる医師は、かなりの数になるとも予想されており、早い時期から準備を進めることが必要と考えられます。