作業関連疾患

ちょっと概念的な話になりますが、「作業関連疾患」について考えてみます。

作業関連疾患は、職業病と対比して使われるようになってきた言葉です。職業病は、ある特定の有害物質や有害作業に限って発生する特別な病気ですが、作業関連疾患は、ごく一般的な作業環境や作業遂行に関連する疾患で、特別の病気ではなく一般の疾患です。ただ、一般疾患といっても、その発症や進行に作業環境や作業遂行が様々な程度で関与または影響するものを意味します。

作業環境管理の改善などによって、有害物質などによる職業病は減少傾向にありますが、生活習慣病や心理的ストレスなどを基盤とした疾患は増加しており、作業関連疾患の概念も必要となってきました。

主な作業関連疾患

  1. 循環器疾患(高血圧・狭心症・心筋梗塞)
  2. 脳血管疾患(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血)
  3. 糖尿病
  4. 脂質異常症
  5. 肝機能障害
  6. 呼吸器疾患(気管支喘息・肺気腫)
  7. ストレス関連疾患(うつ病・不安障害・過敏性腸症候群など)
  8. 突然死(過労死)

なかでもストレス関連疾患の占める割合が多く、精神症状だけでなく、身体症状を呈する疾患も列挙されています。

これらの疾患は、一般社会でもしばしば見られますが、職域における作業環境や作業遂行が何らかの形で関与しているといわれています。

発症要因とその関与の程度からみた労働者の疾病

以下は、発症要因とその関与の度合いから見た労働者の疾病のイメージです。

発症要因からみた労働者の疾病

作業関連疾患は、労災補償の対象となる業務上傷病、対象とならない業務外傷病の間に位置するイメージです。様々な要因が関与しあうため、その発症や進行の因果関係が直接的でなく、原因と結果も1対1でないことが多くなります。そして、業務側の要因と個体側の要因が混在することがほとんどです。

このため、業務起因性と相当因果関係の証明が難しいのですが、過重労働による心臓・脳血管障害や精神障害などのように一定の認定基準のもとに業務上疾病として労災補償の適応になるものもあります。その他の疾病でも労働基準法施行規則第35条の別表1の第11項「その他業務に起因することの明らかな疾病」として業務上疾病と認定される場合もあります。

作業関連疾患への対策

従来の職業病のように原因と結果がほぼ1対1で対応していれば、対策はある程度明確ですが、作業関連疾患においては様々な要因が複雑に影響しあうため、明確な対策を示すのは難しいといえます。

従来のような集団への対応から「個への対応」「個体差の考慮」、さらに「治療だけでなく予防も重視」などといった対策が必要と考えられます。「労働時間」や「心理的ストレス」も有害因子と考えて対策をすること、一般健康診断やストレスチェックなどから「自己の気づき」を促すこと、健康配慮義務だけでなく自己保健義務も意識することなどが重要になると考えます。