厚生労働省や同省所管の独立行政法人労働政策研究・研修機構などからは、労働災害に関する統計がたくさん公表され、その概況や分析結果なども出されています。今回は、これらの統計から少し考えてみました。
労働災害による死傷者
まずは、労働災害による死傷者数(休業4日以上)と死亡者数の推移です。休業4日以上となっているのは、これが届出義務の条件であり、公に集計可能なものだからです。
死傷者数は、2000年頃まで急激に減少していますが、その後は下げ止まりないし横ばいになっています。死亡者数も2010年頃までは大きく減少していますが、その後の減少は緩やかです。
重大災害
次に、重大災害の発生件数です。重大災害とは、一度の災害で3人以上の被災者が発生した労働災害です。
こちらは、減少しているとはいえず、むしろ微増傾向にあるといえます。
こうしてみてみると、労働災害は2000年代初頭までは減少しているものの、その後は減少が大きく鈍化しており、重大災害に関しては全く減少していないことになります。
労働災害が減少した要因としては、主に以下のようなものがあると思われます。
- 機器や技術の改善、自動化の推進
- インターロック機構の導入などの安全対策
- 作業手順書やマニュアルによる作業の標準化
- 高度経済成長期の労災や職業病の事例蓄積とその対策
それでは一方で、なぜ労災の減少は頭打ちになっているのでしょうか。様々な視点から近年の労働災害統計を見てみます。
業種と事業規模
以下は、業種別の労働災害発生件数をまとめたものです。
業種別では、製造業・建設業・運輸交通業が多く、商業や保健衛生業も多くなっています。
そして、事業所規模別の労働災害の度数率(発生率)と強度率(重大度)です。
事業規模別では、度数率・強度率ともに事業所規模が小さいほど大きくなる傾向があります。これら中小規模の事業所において、労災の頻度・重度が高いと思われます。
事故類型
主な事故の類型別の発生件数です。
事故型別では、転倒が最も多くなっています。これは、製造や建設の現場だけでなく商業などのサービス業の現場でも起こりえます。その他、転落や巻き込まれなどが上位に来ています。これらは、経験的に設備の問題より行動災害としての側面が多いように感じています。
事故の原因
事故の原因についての統計です。主に不安全行動と呼ばれるものについて見てみます。
こちらは「不安全行動」に関する統計で、製造業に限定したものです。「誤った動作」が最も多くなっていますが、「その他の不安全行動」「その他」も多く、非定型的・分類困難で多種多様であると思われます。経験的には、作業終了時やトラブル時に「運転中の機械等の掃除、修理、点検等」をして被災することが多いように感じてきました。これは、作業手順・マニュアル違反に該当します。
経験年数別にみてみると、不安全行動をとるのは経験の浅い労働者よりもベテラン労働者の方が多い結果になっています。これは、経験的に感じてきたことと一致しています。
年齢との関連
最後に被災労働者の年齢分布です。
中高年齢層の被災件数が明らかに多くなっています。
まとめ
まだ、ごく一部の統計からの推測ですが、2000年頃を境に労働災害の減少が頭打ちとなっている要因として、次のように推測できると思われます。ひとたび労災が起こると重大災害につながる要因にもなっていると考えられます。
- IT化やグローバル化などで社会環境・産業環境が複雑化している。
- 製造や物流、サービスなどが質・量ともに増大している。
- 少子高齢化に伴い労働力人口そのものが高齢化している。
- 労災発生の因果関係も複雑化・複合化してきている。
- 複雑化、スピード化、高齢化などにより主に行動面での対策が追い付かなくなっている。
- 中小規模の事業所で安全衛生対策があまり進んでいない。
これまで、労働衛生の3管理をはじめ、様々な安全衛生対策がなされてきました。これにより主に職場の作業環境を中心に劇的に改善されてきました。しかし、どうしても設備や技術などハード面での対策に偏りがちで、作業内容や行動面での対策は遅れがちのように思われます。また、すでに起こってしまった不利益事象から対策を立てることが多く、どうしても後追い的・後付け的な対策になってしまい、不測の事態や突発的な事象には弱い傾向にあると考えられます。これに関しては、「作業手順書やマニュアルについて考える」で見てきたような視点も必要だと思います。さらに、高齢労働者への対策や中小企業での対策も必要です。
今後は、これらの新たな問題に取り組んでいかなくては、労働災害を減らしていくことはできないと考えられます。