生物学的モニタリングとは、あまり聞きなれない用語かもしれませんが、特殊健康診断とも関連がありますので見てみたいと思います。
概要と意義
生物学的モニタリングとは、有害物質にばく露した作業者の血液や尿などを採取して、その中の有害物質もしくはその代謝産物の濃度を測定することによって、作業者へのばく露の程度を推定することです。
作業環境の管理状態を評価するために行うことは、作業環境空気中の有害物質の濃度を測定することであり、作業環境測定です。しかし、作業環境の有害物質の濃度は、時間的にも空間的にも変動が大きく、作業者一人一人のばく露状態を正確に評価できない場合もあります。
そこで、バイオロジカルモニタリングによって、作業者個人の現実のばく露レベルを反映するデータを評価します。それによって、作業者への健康リスクの程度を評価することにもつながります。
結果の評価
結果は、血液や尿に含まれる有害物質やその代謝物の濃度として得られます。その結果を評価する基準として生物学的ばく露指標や生物学的許容値というものがあります。これらの基準値は、主に許容濃度との対応によって決定されています。
許容濃度
許容濃度とは、有害物質にばく露される作業において、「1日8時間、週40時間程度の労働時間中に、肉体的に激しくない労働に従事する場合の当該有害物質の平均ばく露濃度がこの数値以下であれば、ほとんどすべての労働者に健康上の悪影響がみられないと判断される濃度」と定義されているもので、日本産業衛生学会から毎年公表されています。日常作業における個々の労働者へのばく露限界の基準といえます。作業環境そのものの評価基準である管理濃度とは違った趣旨です。
特殊健康診断への利用
生物学的モニタリングは、作業者へのばく露の程度を推定するための方法ですが、健康へのリスク評価にも利用されています。例として、鉛作業者の血中鉛、尿中デルタアミノレブリン酸、有機溶剤作業者の尿中代謝物(馬尿酸、メチル馬尿酸)などがあります。結果の評価である分布区分の基準は、許容濃度を超えるばく露があるかどうかの推定で決定されており、分布2と3の境界値が許容濃度レベルへのばく露の目安とされています。
注意点
以上のように生物学的モニタリングは、作業者個々人への有害物質のばく露指標として有用で、特殊健康診断にも利用されています。しかし、個人差や試料サンプリング、作業状態などに影響されやすく、精度が高いとは言えない側面もあります。結果の評価は、作業環境測定や作業管理(保護具の着用状況など)、作業者個人の体調や健康状態などを総合的に検討して行う必要があると考えられます。