製造業の安全衛生(一般論)

これまで、素材・自動車部品・配管部品などの製造業、食品製造業、倉庫・物流などの運輸業、測量業を中心に多くの職種・職場の産業医業務を経験し、様々な労働災害や健康障害を見聞してきました。全体としては、3管理のところでも記載したとおり、ハードウェアよりソフトウェア的な要因によって起こることが多いと感じてきました。

よくある労働災害や事故として、はさまれ、巻き込まれ、打撲、転倒などがあります。ほとんどは不休災害でしたが、なかには、フォークリフトとの接触による重大事故、溶鉱炉での重度熱傷、移動式機械への巻き込まれによる内蔵損傷など重大な休業災害もありました。原因として一番多かったのは、やはり基本的なルール違反、手順書違反でした。発生場面・時間帯としては、通常作業時よりトラブル発生時や作業終了後の非定常作業時に多い傾向があり、作業終了後の清掃時などにも多い傾向がありました。

健康障害で一番多いのは、重量物取り扱いや長時間の立ち作業による腰痛です。業務量や繰り返し回数などやむを得ない要因もありますが、小分けにして持つことや下半身を固定したまま腰をひねらないなどの作業方法の改善、腰痛ベルトの使用などで予防可能な例も多いと感じます。最近では、リフトを導入するなど設備面での対応が進んでいる職場もあります。
また、熱中症も増えています。こちらは徐々に啓蒙活動が進んで、水分やミネラル飴の配布、作業着などの被服の改善、換気・冷房などの設備改善などの対策がなされています。そのため、職域においては重症化する例は少なくなってきているようです。

時間管理の点では、現場での作業や交代勤務が多いため極端な長時間労働は少ないように感じます。しかしながら、納期や突発的な受注増加、設備トラブルやメンテナンスなどに伴う不定期な時間外労働は多く、夜勤や交代勤務によるサーカディアンリズムや生活の乱れも見られます。また、特定の技能を持った職員への仕事の集中や間接部門の人手不足などによって、同じ職員に長時間労働が集中する傾向が見られます。このため、独特の時間管理対策が求められる場合があります。

メンタルヘルス不調に関しては、長時間労働に起因するものは比較的少ない印象です。復職面談や過重労働面談、ストレスチェック後の面談などでよく聞かれるのは、人間関係やコミュニケーション不足に起因するものです。上流・下流工程間の意思疎通不足、仕事配分や作業能率格差に対する不満、上司・部下の年齢的逆転、中間管理職不足のため直近上司が社長になって相談しづらく抱え込んでしまうなどの例がみられます。説明不足や相談しづらい雰囲気などが根底にあるようです。