発達障害傾向が疑われた事例-2

50歳台男性、長年、計測機器の試作品作成に従事し、主にはんだ付けなど回路作成を行っていた。どちらかというと単純作業の繰り返しが得意であった。

時折、はっきりとした理由もなく不機嫌・攻撃的になったり、業務能率が低下することがあった。また、人とかかわることが苦手で部署内でも孤立する傾向があった。上司が本人や同僚に事情を聞いたところ、意欲の低下や体調不良を訴えることもあったため産業医面談となった。

面談してみると、明らかに人と話すことが苦手で、年齢不相応に自己表現や状況説明の能力が低い印象であった。話を聞いていくと、軽い不眠などの症状はあるものの、訴えは主に職場環境への不満やイライラ、落ち着かない感じなどであった。職場環境で一番気になることは「物音」であり、とくに同僚の話声や物がぶつかるちょっとした音などであった。不眠などの症状については以前、心療内科などを受診したが、ほとんど効果はなかったため受診をやめてしまったとのことであった。結局のところ、とにかく静かな環境で落ち着いて仕事できれば良いということが訴えの中核であった。

以上の結果を踏まえて上司や本人とも話し合い、席替えを行って、耳栓の着用を認めることになった。また、職務内容はこれまで通り比較的単純な作業である「はんだ付け業務」を中心にすることになった。この結果、症状の訴えは消失し、周囲との摩擦も目立たなくなった。

本事例は、コミュニケーション不良や聴覚過敏から心身症状を呈し、業務能率の低下や同僚との人間関係の悪化を引き起こしていました。会議など人とかかわる業務は苦手で、はんだ付けなどの単純繰り返し作業を好む傾向も強くありました。このような状況から発達障害がベースにあると疑いました。聴覚過敏が中核にあったため、会社の理解を得て「耳栓」の着用を認めてもらったところ、一定の状況改善がみられました。発達障害には聴覚過敏を伴っていることも多いようですので耳栓の着用が効果的と考えられますが、業務内や同僚との関係性、安全衛生などの面から総合的に判断する必要があると考えられます。