職域における発達障害

これまで本ブログでも発達障害もしくはその傾向が疑われる事例について何例か記載してきました(事例1事例2事例3)。各々似通った傾向もあれば違った傾向もあり、多彩な特徴がみられました。また、その特徴に応じて対応も検討していかなくてはならないと感じてきました。ここで、いわゆる「大人の発達障害」「職域における発達障害」に関してまとめてみたいと思います。

発達障害は、DSM-Ⅴではいくつかの分類がありますが、職域における大人の発達障害はおおよそ下図のような傾向に分類されると考えられます。すなわち、自閉症スペクトラム(ASD)と注意欠如多動性障害(ADHD)です。しかし、これらは明確に線引きされるわけではなく各々軽重や傾向などが様々なグラデーションとして現れます。

大人の発達障害

次の図は、縦軸にASDの傾向、横軸にADHDの傾向をとって、下に行くほど重度ではっきりとその特徴が出ているものとしてイメージを表したものです。ASDの傾向は主に人間関係などの社会性、ADHDの傾向は主に集中力や業務遂行能力に影響すると考えられます。その程度も特徴・特性(個性)の延長線といえるものから障害・疾病のレベルまで様々です。さらに環境や職務への適応のしづらさなどから二次的に抑うつ症状や身体化症状を呈することもしばしばで、状況をより複雑にしています。適応障害と診断されているケースも混在していると思われます。

発達障害のイメージ

これまで記載してきた事例は、上図の右上方に位置するもので障害・疾病というよりは特徴・特性といえるものでした。このため、「発達障害傾向もしくはその疑い」と表現してきました。しかし、昨今、職域で問題となるのは主にこの領域(グレーゾーン)に位置する事例だと考えられます(参考1)。

発達障害への主な対応

発達障害としての症状がある程度はっきりしていて診断もついていれば、医療の介入、行政支援を受けているケースが多く、就業支援や配慮もしやすくなります。状況によっては障害者雇用の対応も可能で、雇用者側にもメリットとなります。また、障害・疾病であれば事業者側にも一定の配慮が求められます。

しかしながら、グレーゾーンの場合は通常雇用であり、高学歴の場合も多いのでなかなか事業場の理解が得られにくいのが現状です。本人も発達障害傾向に関しての理解や受容が得られていない事がほとんどです。抑うつ症状などの二次的疾病を伴えばそれに対する医療や就業配慮がなされますが、根本にある問題は十分に解決されません(参考2)。また、人事担当者や一緒に仕事をする同僚の負荷も増大し、周囲が疲弊することにもなります。

大きな企業であれば様々な部署や職務があるので異動や職務内容の変更は比較的容易です。指導・教育体制も整っていることが多いのである程度時間をかけてきめ細かく対応することも可能です。しかし、中小企業ではこれらの対応では困難なことが予想されます。また、一緒に仕事をする同僚へのサポートも重要になります。

業務指示の出し方や指導の仕方など支援スキルの向上、強みを生かせる職務への移行、本人の気づきを促すなど事業場内での努力はもちろん必要です。しかし、限界があることも事実で状況に応じて雇用形態の変更や在宅勤務制度の導入、再就職支援なども検討していく必要もあると考えられます。また、医療機関・リワーク施設や行政機関などの事業場外資源の利用なども含めて多角的に考える必要があります。

三方一両損・一両得のような解決策も模索していかなくてはならないかもしれません。当事者間・周囲の支援者などの合理的な理解・互譲が不可欠でしょう。いずれにしても、まずは「発達障害もしくはその傾向」そのものについての理解が重要と考えます。