ストレスチェック制度

ストレスチェック制度は、定期的に労働者のストレスの状況について検査を行い、自らのストレスの状況について気づきを促すとともに、検査結果を集団的・統計的に分析して職場環境の改善につなげることによって、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止すること(一次予防)を主な目的としたものです。また、「高ストレス状態」の労働者に対する医師による面接指導の制度もあります。

2015年12月に施行されましので、実施の趣旨や流れはおおよそつかめてきたのではないかと思います。ストレスチェックの外部委託を受ける業者も増えてきました。

ストレスチェック制度の概要と特徴

まず、第一の目的が「自らのストレス状況の気づきを促す」ことですので、いわゆる「セルフチェック」ということになります。対して第二の目的は「結果の集団的・統計的な解析」ですので、個人を特定しない「集団的な結果検討」といえます。そして、個々人の結果は、本人の同意がない限り実施主体である事業者(会社)は、知ることができません。当然、同意は本人が主体的に行うことであり、事業者が強制することも、事前に包括同意をとることも禁止されています。

実施責任主体、すなわち、実施の目的である「労働者のメンタル不調予防」の責務のために費用を負担して実施に関する責任を果たす事業者(会社)が、本人同意なしに結果を知ることができない。この点が、同じく「労働者の健康障害の予防」の目的で行われる定期健康診断や特殊健康診断との大きな違いだと思います。

このことは、個人のメンタルに関する情報が「機微な情報」であり、結果によって不利益な取り扱いをされる恐れがあるからだと考えられます。「機微な個人情報の保護」が一番の理由だといえます。しかしながら、この点が、ストレスチェック制度をややこしくしている側面もあると感じています。

ストレスチェック制度の実務と課題

以下は、厚生労働省から出されている「ストレスチェック制度実施マニュアル」から抜粋した実施フローのイメージ図です。

ストレスチェック制度の流れ

この図を見るとストレスチェックの実施実務には、「実施者」が中核的な役割を果たすことがわかります。そして、本人以外に個々の検査結果を知り得るのは原則として「実施者」だけです。

「実施者」になることができるのは、「医師、保健師等(産業医が望ましい)」で、具体的な役割は主に以下の通りになります。

  1. ストレスチェックの実施にあたって、事業者に専門的見地から意見を述べる。
  2. 個人のストレスチェック結果を、労働者に直接通知する。
  3. 高ストレス状態と結果が出た労働者などに対して、医師による面接指導を受けるように勧奨する。
  4. 個人のストレスチェック結果について記録を作成(保管)する。

おおよそこのようになります。1については特に問題はないと思います。しかし、2~4については、数人に対して実施するならともかく大勢に対して行うとなると、一個人の医師や保健師が行うのは困難です。そこで、2と4については「実施事務従事者」を選定して、実際の実務をさせてもよいことになっています。それでも3については、個別に行うには相当な業務負荷になると思われます。

ストレスチェック制度において、「高ストレス状態」との結果にもかかわらず面接指導の同意が取れない場合(面接指導を申し出ると検査結果の事業者への提供に同意したとみなされます)、情報が事業者に共有されないことによって責任の所在があいまいになることが懸念されます。特に「実施者」を「産業医」が兼ねた場合には重要な論点となります。このような理由などから、「実施者」と「産業医」は別の担当者の方がよいと考える向きも多くあります。正直なところ、私もそのように考えています。

ただ、ストレスチェック制度の一義的な目的が「セルフチェック」であり、事業者への情報提供に本人同意が必要である以上、その結果を受けてどういう行動をとるかについては本人の責任だと考えられます。また、そもそものストレスを生じさせたのは職場もしくは職場外(個人)の要因です。こう考えると、「高ストレス状態」や「面接指導および事業者への情報提供の不同意」については、実施者には責任がないと思われます。

また、ストレスチェック制度の実施には大きな事務作業的な手間や機微な情報を取り扱うことに伴う負荷があり、「実施者」や「実施事務従事者」のみで行うことは困難と言わざるを得ません。面接指導の受診勧奨についても個別に行うことは現実的でない場合が多いと思われます。

実際には、実施実務は「外部業者への委託」とし、面接指導の受診勧奨については「社内広報・ポスター」「個人を特定しない一斉メール」「パンフレット」などでの全体的・無作為的な呼びかけになるのではないかと思います。パンフレットなどにストレスマネジメント等の情報を盛り込めば、「面接指導を希望しない労働者」「事業者への結果の提供に同意しない同労者」への配慮にもなると思われます。

そして、「産業医」は、「面接指導を希望する労働者(事業者への検査結果の提供に同意した)」に対して適切な対応を行い、「事業者」は、「面接指導結果に基づく個別対応」や「集団解析結果に基づく事業場の環境改善」に取り組めばよいのではないかと考えます。うまく役割や責任を分担することが大切だと思います。