食品製造業の事業場でベルトコンベアの「はさまれ事故」がありました。幸いケガは、左手人差し指の爪剥離だけで済みましたが、事故の発生要因が確認不足・コミュニケーション不足など人為的要因が強いものだったため問題となりました。
事故の発生は、夜勤帯でした。製造ラインのベルトコンベアに製品のカスが挟まって動きが悪くなったため、担当エンジニア(正社員)が、作業手順書に従いラインを停止してメンテナンスにあたっていました。一通り対処が終わったため、通常の3分の1程度の速度で試運転をしていました。この時、別の機械エンジニア(派遣社員)がライントラブルに気づいて後ろからやってきて、先に対応していた正社員に声もかけずに単独で対応し始めてしまいました。既に試運転が始まっていたことに気づかずに不用意に手を出したため、左手をベルトと軸の間に挟まれてしまい、咄嗟に引き抜いたときに人差し指の爪を剥離してしまいました。
この事故の発生要因として、以下のような要因が考えられます。
- 後から来た派遣社員が、初めに対応していた正社員に声をかけて状況確認をしなかった。自己判断で単独で対応を始めてしまった。
- この派遣社員は、20歳代で当該事業場での経験年数はまだ8か月程度であった。
- 夜勤帯で人が少なかった。生産繁忙期で各々が少し焦っていた。
このような要因が重なったと思われます。特に重要なのは1の要因で、典型的な確認不足・コミュニケーション不足です。会社担当者との間でもこの点を一番問題視しました。
原因としては、ベースに3があって事業場全体に少し急ぐような雰囲気がありました。そして、正社員と派遣社員との間に「微妙に話しかけづらい雰囲気」があったのではないかとのことでした。その他、被災労働者の年齢や経験年数もちょうど仕事に慣れかけたころで、事故を起こしやすい時期にあったように思います。これらの要因が重なって発生してしまった「はさまれ事故」であると考えられます。当該事業場の基準では、ケガの程度から「軽微災害」に分類されますが、発生状況からは「重大な災害」と判断しました。
昨今の労働災害を見ていると、やはり今回のような人為的要因によるものが多いように感じます。他でも記載してきていますが、生産設備などの作業環境はかなり改善されてきており、インターロック機構などもあって設備それ自体の問題が事故の原因になることは減ってきていると思います。一方で、確認不足・コミュニケーション不足・手順書違反のような人為的要因や作業管理面での問題による事故が増えています。特に雇用環境や人間関係の複雑化などによるコミュニケーション不足は深刻な問題と考えられ、このような問題があることを明確に意識することや「話しやすい雰囲気づくり」を平素から作ることが重要と考えられます。